㊽田舎へ帰る
田舎へ帰る
会社を辞めて私は福島の実家に逃げ帰りました。しかし、「帰って来るな」と、強く釘を刺された私は大きな不安を胸に玄関を開けました。
ガラス戸でできた玄関の扉を「ガラガラ」と開け、暗い声で「ただいま」と言うと、部屋から母親が出てきました。
正面に仁王立ちした母は案の定、私を鋭い目で睨みつけてきました。
圧倒された私は下を向いて黙ることしか出来ませんでしたが、その数秒間の沈黙の後です。
「ぷっ!ははははは」
母は、道に迷った子犬の様な私の情けなく惨めな顔を見て思わず吹き出しました。
「おかえり!早く入りなよ」「でも、ちょっと根性が足りなかったなぁ」
その言葉に大きく救われた私は「うん、わかった。ごめん」と言い、ウェルカムではないものの、割と暖かく迎えてくれた両親に感謝をしながら家に帰ることが出来ました。
子供を心配しない親などいません。帰って来るなとは言いながらも仕方がないなと覚悟はしていたのだろうと思います。
負けてすごすごと帰ってきた息子をその場で追い返すほどの鬼ではなかったことには感謝ですね。
でも、安らぎはこの時だけ。「ちょっとのんびりするか」の考えは虫が良すぎました。
その後、わたしは家族から執拗に就職を迫られる生活が三か月ほど続きました。
いつまでもプータローを容認するほど甘い家族ではありません。