初めてのギター 

私が小学生の頃のとある日、兄が地元の楽器屋さんからギターを購入してきました。

価格は当時で7,000円のYAMAHAの初心者用のクラシックギターです。

多分、兄は、お小遣いを貯めての念願のギターではなかったかと思います。

私にとっても、これが良くも悪くも将来にわたりギター沼にドはまる原点となります。

で、早速その日からギター特訓の始まりです。元来、凝り性の兄は努力を惜しまずに練習をして、めきめきと上達し、

大好きなサイモンとガーファンクルの楽曲をアルペジオやスリーフィンガー奏法でどんどん習得していきます。流石おれの兄ちゃんだ。

しかし、弟の私も黙っているわけではありません。練習演奏を見様見真似、或いは面倒くさがる兄にしつこく教わりながら、一生懸命に覚えたものです。

最終的には、難関とされる楽曲の「アンジー」も習得するところまで二人は上達しました。おめでとうございます。

さて、70年代当時は、空前のフォークブームでした。今でも御存命な吉田拓郎や井上陽水等のシンガーソングライター全盛の時代。

そんな中、ふと、私達兄弟はある疑問にぶち当たりました。

「なんか家のギターと音が違うよなぁ」と。仕方が有りません。彼らが弾いているのはスチール弦を張っている

所謂フォークギターだったのです。私たちの家にあるのはナイロン弦のクラシックギター。

当時、喜び勇んで楽器屋に買いに行ったのは良いが、ギターの種類に全く無知だった兄は、楽器屋のおやじに薦められるままに

疑いなくクラシックギターを購入してしまったと言う訳。

「やっぱり違うよなぁ音」と再び兄がぼそっと言います。「そうだね兄ちゃん」と、とりあえず調子を合わせた私ですが、

「お前、親にねだって買ってもらえよ」と案の定、早速兄貴カゼをふかしてきました。

その後、仕方なく私は兄の指示通り母親に再三ねだりましたが、予想通り、「一本有れば十分だろ!!」と敢え無く却下。

そんなこんなで、数日が過ぎましたが、ある時、兄がニコニコ顔で学校から帰ってきます。

彼が手にしているのは、帰りがけに楽器屋さんで買った新品のスチール弦ではないですか。

兄曰く、これを工夫してクラシックギターに張替えれば、きっとフォークギターと同じ音がするに違いないと言う訳です。

なるほど、流石は兄ちゃんだ!とまた調子を合わせ、私は心をわくわくさせながら、兄の「違法改造」を傍らで見守りです。

~さあ、やがて、兄がギターをスチール弦に張り終えて、この「違法改造」の終了です。やったね兄ちゃん!

早速、「ジャリーン」と兄がEコードを奏でると、まさしくそれはフォークギターと同じ音ではないですか!

「どうだぁ?」と、これまた兄貴カゼ全開のドヤ台詞が到来。

一瞬にして輝くヒーローの誕生に、やったね兄ちゃん!と再び、そつなく調子を合せる弟。これ楽しいね。

.............さてさて、ところが、翌日の朝です。兄がドヨーンとした目で部屋から出てきました。あれ?昨日の勢いはどこ行った?

どうしたの?と訊くと、兄が力なく指さしたのは昨日の主役だった「カスタム・クラシック・スチールギター」。

うわ!私は一瞬目を疑いました。何と、見るも無残。ギターのネック竿が本体の表面側にエビぞっているではないですか?

まるでハープじゃん。と私が言うと、ああ、まるで猪木の逆エビだなと兄。笑い事ではないのだが。

そうです。昨日張り替えたスチール弦の強いテンションに、ナイロン弦専用のクラシックギターが悲鳴を上げて逆エビ状態になってしまったのです。

しばし呆然とギターを見つめる二人。しかし、曲がってしまったものはどうにもなりません。これは、しごく真っ当な物理作用なのですから。

..........この様にして、兄の自慢のカスタムギターは、一夜にして御昇天です。さようならぁ。今までありがとう。楽しかったぁ....

兄弟は、その後しばらくはこの忌まわしい出来事に対する後悔の日々を送ることになります。懺悔。

嗚呼、折角のにわかヒーローが今日は死に神に格下げです。

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