NO.51 中板橋での生活 あの野郎との永遠の闘い
郡山市から東京に転勤になった私は会社が借り上げた新築のアパートに入居しました。
アパートの場所は板橋区の中板橋。ここは池袋から東武東上線に乗って4つ目の駅です。アパートは有難いことに北口改札のド真ん前という立地でした。
気になる間取りは1Kの5.5畳という狭さです。ここで趣味のシンセサイザーを数段あるラックに設置して寝泊まりの生活していたのが今では嘘の様です。
東京の生活で感じたことは、まず、夏は鬼のように暑い。風が吹かないうえに建物が密集しているから他の家のエアコンの排気熱風をまともに喰らう訳です。
そして、忘れてはいけないのはゴキブリ共との闘い。ゴキは飛ぶんです。バタバタと。
ある夜、ガサガサと音がするのでもしやと思い、電気をつけてみると何と、大事な大事な私の高級サンプラーシンセサイザーの鍵盤の上で奴は仁王立ちしているではないですか!
「おお、何ということだ!」という絶望の後は「ふざけた野郎だ」という憎悪に思いは変わりましたが、すぐに訪れたのは「どうしよう」という困惑。
たかが虫一匹に空間を支配された私は狼狽し、対応に窮する状態でした。
もし、奴が床に居るのだったら「少年サンデー」で思いっきり叩き潰すのは習得済みでしたが、今は、大事なシンセサイザーの上に居るのですからそうもいきません。
かといって、放っておけば気になって眠れない。しかし、今も仁王立ちしてこちらにほくそ笑んでいるあの野郎を何とかして後悔させてやりたい。
その復讐心を奴に対する睨みに変えて私は悪党に支配された空間に少しだけでも抵抗しているという安堵感を得るのが精一杯でした。
そんなこんなで、数分間思案した私は以前、姉が言ったアドバイスを思い出しました。
そうだ!あれをやってみよう!夜中だが背に腹は代えられない!近所の皆さん。少しだけゴメン。
私は掃除機器を慎重にコンセントに繋ぎ早速実行に移りました。
私は素早くノズルを奴の目の前に持って行き、スイッチを押しました。
すると、「ブゥオー」という轟音と共に奴はノズルに吸い込まれていきました。
「やった!ザマー見ろ!」と私は吐き捨て、その場で高らかに勝利宣言です。
「これで安心して寝られるな」
その後、私はようやく戻ってきた安心な空間を得て、再び眠りにつくのでした。
しかし、掃除機に吸い込まれたとはいえ、死んだ訳ではないのでまた戻って来るのでは?という疑問が発生します。
以前、私はこの質問を姉にぶつけましたが、姉が言うには「中でごみと一緒に乾燥するからそのうちに死ぬよ」
という頼もしい回答でした。実際にこれで奴らが生還した例は一度もありませんでしたが、
心配ならば紙パックをすぐに処分すれば安心ですね。
ちなみに、ネットでググッたらやはり直ぐに紙パックは捨てた方が良いみたい。