㊵ 闘い

私は東京で退職を決意したころから、ある深刻な症状に悩まされていました。それは、人と会話をしていると急にめまいがして気を失いそうになるという症状です。運転をしていてもたまにその症状が出そうになる時もありました。都度、精神を集中させて凌いでいましたが、もし、運転時に気を失ったら大事故になってしまう。そんな恐怖心が更に恐怖心を増幅させる最悪の状態でした。それでも、病院に行くことなど無く、過度なストレスが原因だと自己判断していた私は、退職をしてまで福島に帰る決意をしたのもこれが一つの要因でもありました。

田舎に帰ればストレスが軽減されてこの症状も治るかもしれない。そんな一縷の望みを持って私は営業で福島に戻ってきたのです。

ところが、営業は生易しいものではありませんでした。毎日の様に営業所長から叱られ、怒鳴られ、その惨めな姿は家族には決して見せられないような状況が続きました。何と言ってもここでは新人です。エンジニア時代に築かれた自信とプライドなど一瞬で吹き飛ばされ、何の役にも立ちませんでした。

それどころか、トンネルを通ると眩暈がして気を失いそうになるという症状が新たに発生する始末です。

この様に、折角、地元に帰ってきたのに例の症状は、改善どころか皮肉にも更に悪化していくのでした。

「俺は使えねー営業だ」「それに症状が治らないのなら、どちらにしても辞めるしかなかったんだ」。失意のどん底に落とされた私は、今度こそ退職を決意しましたが、途中で投げ出して会社に迷惑をかけるわけにはいかないので、苦しみながらも営業に与えられたチャレンジ目標なる売り上げ目標を何とかクリアし、赴任から半年後に退職願を提出しました。

この様にして私は、長年勤めあげ、自分を成長させてくれた感謝すべきFXをあっけなく去ることとなりました。

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