⑲舎弟と鬼ごっこ

30年前の東京での出来事。

夕方16時ごろ私はあるお客様にシステムの修理にバイクで向かっていました。途中で交差点の信号が赤になり私は横断歩道の手前に停車していた先頭車を追い越す形で停車させました。ごく普通の信号待ちの光景かと思います。やがて信号が青になり私はバイクを発進させました。ところが、少し走ったところで後方から何となく圧力を感じた私はサイドミラーで後方を確認しました。すると、そこに映っていたのはあちらの筋の方が好んで利用する白の高級外車だったのです。後ろを振り向いてさらに確認すると血相を変えてこちらを睨みつけているおじさんと舎弟が二人。「やばい」一瞬にしてそう感じた私は道を直進して逃げましたが、それでもグングンと煽ってくる高級外車。きっと先ほど交差点で停車した時、外車のドライバーは自分の前にぴょんと出られたのが気に入らなかったのでしょう。しつこく私を追い掛け回す高級外車。鬼ごっこなどしている暇は無いのだが舎弟に諦める気は全く無い様です。生命を脅かされてお客に向かっていることなどすっかり忘れてしまった私はそれでも兎に角逃げました。丁度、運よく道の途中で細い路地があり、そこに素早く進路変更をし、これが、まくことに成功した様でやっと舎弟は諦めたようでした。ほっと胸をなでおろした私でしたが、逃げるのに精いっぱいで「ここは何処?私は誰?」の見たことのない景色が更に私に追い打ちをかけてきました。どこまで走ったのだろうか?「くそっ」と私は地図を確認しながら大分遠ざかっていた目的地にバイクを走らせるのでした。都会は怖いですね。

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